トラブル発生次の日も漂流していたが一向にしけはおさまらない。しかし午後になって雲が薄くなってきた。風で流された針路を修正して大波の中を出発することにした。その夜トラブルが発生、オートパイロットが動かなくなったのだ。しかも、万一に備えていたウインドベン（風力自動走行装置）の部品が破損してしまった。さすがの船長も頭を抱えてしまったが、二人で協力して難局を乗り切るしかない。約２日間交代で舵を取ることになった。
幻聴自分の担当のときにコースを外さないように必死に操縦。夜も昼もあまり寝られず舵を取っていると、後ろで人の声が聞こえる。笑い声も聞こえる。ありえないと思いつつ振り返ってみるが、当然だれもいない。風の音やエンジンの音が交じり合って、混声合唱が聞こえる、なつかしの唱歌や歌謡曲がはっきりときこえるのだ。この合唱に励まされているうちにやっと空が明るくなってきたが、昼夜の区別も分からなくなって、何日目だったかもさっぱりわからなくなっていた。
